以前、日本経済新聞に、スマートグリッドで「国際標準作りを協議する委員会の最重要ポストに中国の人が就いた」ということが載っていました。
日本は技術はあっても国際標準化に対する戦略が弱く、南米の地デジのように、日本方式が導入されても、テレビの売上は韓国勢にさらわれたというような苦い経験が数多くあるようです。
それで思い出すのが会計基準の国際的統一化(グローバル・スタンダード)です。
ビジネスの世界でグローバルな競争を行う場合、競争のルールを守らなければなりません。
独占禁止法などの法律上のルールや銀行が海外での活動をする際に守らなければならないBIS規制もその1つです。
グローバル化が急速に進展した今の経済社会では、様々な分野でグローバル・スタンダードの重要性が増しています。しかも、そのグローバル・スタンダードをどう決めていくかが、各国や企業の利益を大きく左右するようになっています。
まさしく、ルール作りのヘゲモニー(主導的地位)を握るかどうかが、グローバル化する経済体制にあっては、市場の支配者となりうるかどうかの分かれ道となるわけです。
日本における国際財務報告基準の導入を巡り消極的意見も多くあるようです。経済のルールともいえる会計基準においても、我が国は標準化の波に乗れない可能性があります。
そのような我が国に対し、国際会計基準を積極的に受け入れることで、基準作りに関与できる立場となり、ルール決定に影響力を行使していこうとする国があります。そう、その国こそが中国です。この20年間、中国は明らかに、このことを国家戦略として行ってきました。
その強い意志を表しているのが「国家会計学院」です。
国会会計学院は、上海と北京、そしてアモイにあり1990年代後半に相次いで建設され、会計士の育成や会計士の再教育などを行っています。
さらに、2008年10月には、中国政府によって国際財務報告基準大会が開催され、国際会計基準審議会(IASB)議長のデービッド・トゥーディー(当時)をはじめ、世界各国から、会計基準の設定担当者や会計士協会の幹部などを招き、いわば会計のオリンピックを開いたのでした。この大会の冒頭、中国財政部副部長(日本で言う財務省次官)で、中国会計基準委員会秘書長を兼ねる王軍が歓迎の挨拶に立ち、こう言いました。
「世界に認められる高品質の会計基準はグローバル経済の安定と発展のみならず、中国のような発展途上国がグローバル経済に参入、融合するために必要である。国際市場から遊離したくなければ、すべての国・地域及び組織は、コンバージェンス(会計基準の収斂)の船に乗るべきである。」
コンバージェンスに背を向ける国は国際市場から遊離してしまう―20年にわたって会計国際化に背を向けてきた日本に対する警告のようでもありました。
ではなぜ、中国は会計基準や公認会計士制度の整備など、会計を国家戦略の1つに据えているのでしょうか?
中国が経済開放した当初は、外資を積極的に受け入れることが国家戦略でした。そのために、海外の投資家が理解できるような欧米と同じ会計基準や会計監査の制度の整備を急ぎ、公認会計士を養成し、不正会計を撲滅することで、「中国企業の決算書は当てにならない」「中国企業は不正の温床だ」といった海外の批判を回避しようとしていました。
しかし、2005年以降は国際会計基準を事実上受け入れる代わりに、自ら国際会計基準の基準設定に関与していく戦略に転換したのです。財務次官の王軍は、「中国は今後も、世界の会計の発展のために、しかるべき役割を果たし、より積極的に関わっていく所存である」と述べています。
つまり、中国は国際会計基準などのルール作りに今まで以上に積極的に関わっていく、という明確な戦略を打ち出しているのです。
ルールを決める者が勝利を得ることができるのはスポーツの世界では特に顕著ですよね。
柔道しかり、ジャンプスキーしかり、バレーボールしかり、我が国はルール決定に参加できず、決められたルールを押し付けられた結果、不利な立場に立たされるという事態を何度も経験しました。
しかし!これが「経済のルール」である会計であれば、その不利な立場は国家規模になります。
自国のみの利益だけを追求する国際政治の舞台で、いかに我が国がルール作りに参加できるか、いま、日本はまさに戦略を構築して経済外交に当たらなければいけません。
ちなみに、「戦略的」な視眼について日本人は苦手にしているといわれます。
目の前の取り組みは得意ですが、物事を俯瞰し、5年先、10年先、さらには100年先を見据えて今を動くということは、日本では政治をはじめなかなか行われていないようです。
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