この記事は、高校・専門学校・大学で簿記、会計、経営学などの商業教育・ビジネス教育に携わる方に向けて書いています。
私は、独自開発のビジネスゲームを使った人材育成事業の経営者です。公認会計士業務としての実務経験と、自分自身の会計士試験での苦労を活かし、熊本学園大学、熊本市立総合ビジネス専門学校、専修大学熊本玉名高校、熊本市立藤園中学校などで教えています。その現場で気付いたことをまとめます。
ここ数年の生成AIの進歩は目覚ましく、資料整理、情報収集、分析など、これまでスタッフに頼んでいた作業をAIが24時間こなしてくれます。
アイデアやビジョン、全体像を持つ人は、人に任せていた部分もAIで自分一人でこなせるようになり、大きな成果を出せます。一方で、言われたことをこなす作業が中心だった人にとっては、厳しい時代です。
では学校教育はどうでしょうか?私が見る限り、ほぼ旧態然のままです。気の利いた学校は「AIを使ってみましょう」と取り組んでいますが、中心はやはり「答え・解法」のある試験勉強です。特に商業高校や専門学校では資格試験対策が中心になり、「問題の解き方」の教育が主になっています。
その一方で、東大・京大の入試問題をAIが解き、合格者の最高得点を上回ったと報じられています。解き方を覚える教育だけでよいのか、という疑問が出て当然です。

では、小学生のうちからAIを日常的に使わせればよいのでしょうか?私は懐疑的です。
「探偵ナイトスクープ」で、AIに頼りすぎる娘に悩む父親の依頼が取り上げられていました。娘さんはAIに考えてもらった標語で標語コンクールに入賞しましたが、同じようにAIを使った別の小学生からも、全く同じ標語の応募があり、その子も入賞したそうです。同じ題材をAIに投げれば、同じ答えが返ってきます。みんながAIを使う競争の場では、これでは差別化になりません。
AIの成果は、使う側の理解度で決まります。例として「減価償却」を考えます。
①計算方法を覚えて電卓を叩く学び方(簿記3級・2級レベルの試験勉強)で止まっていると、AIへの質問は「減価償却について教えて」になりがちです。
②財務会計、管理会計、法人税法などを腰を据えて学んだ人なら、次のように踏み込めます。
・収益費用アプローチと資産負債アプローチ、両方の観点からの考え方
・会計上と税務上の計算の違い
・経営者目線での、投下資本の回収計算としての減価償却と、経済的耐用年数・法定耐用年数を使うことの是非
質問が変われば、AIの回答も、その後の行動も大きく変わります。必要なのは「AIの使い方」を教えることよりも、その土台となる体系的な知識と経験を身につける教育ではないでしょうか。

先生が教科書を片手に長く説明し、生徒は聞き続ける。この授業スタイルは明治以降ずっと続いてきました。しかし、何が起こっているのは?それは誰しもが経験している「聞いても理解できない、聞いたそばから忘れる、結局身につかない」・・・。これは個人の努力不足ではなく、受動学習そのものの限界です。
当社は10年前から、ビジネスゲームを活用した「シミュレーター法」による実践演習を提唱しています。大切にしているのは次の3つです。

ゲームの中で受講者は実際に意思決定をし、結果を受け止め、うまくいかなければやり直します。失敗しても大丈夫な環境だからこそ思い切って挑戦でき、それが深い学びにつながります。
Sitzmann(2011, Personnel Psychology)は、65件の研究(受講者6,476人)を分析し、シミュレーションゲームで学んだ人は、比較グループより自己効力感が20%、宣言的知識が11%、手続き的知識が14%、知識の保持が9%高かったと報告しています。
もう一つの当社のノウハウが、ファシリテーターの運用です。ファシリテーターには「一度に8分以上は話さない」「解説しすぎない」と伝えています。流れはシンプルです。
月1回のファシリテーター勉強会でも、「先生や講師にならないでください。長々と解説するのが仕事ではありません。受講者が自分で疑問を持ち、自分で考え、お互いに教え合うよう上手にファシリテートすることが役割です」と伝えています。そして「主役はあなたではなく、ゲームで学ぶ各チームのメンバーです」とも。
ゲームではCEO・CFO・PSMなどの役割を分担し、各メンバーが場面ごとに主役になれる設計です。簿記資格者のような高い計算・事務能力がなくても、サイコロ運、戦略眼、チームをまとめる力があれば活躍できます。

こうした考え方を簿記の正規授業に落とし込んだ例として、熊本市立総合ビジネス専門学校の「商業簿記」で行った、日商簿記1級・2級クラス合同の財務分析大会を紹介します。
通常、レベル差の大きい1級クラスと2級クラスが一緒に学ぶことはありません。しかし私たちは「お互いに学び合うこと」を重視し、財務分析という切り口で、同じ題材に取り組める場をつくりました。
決算書について、私たちの授業では「作れる・読める・活かせる」の3つを学びます。一般的な簿記の授業が扱うのは、ほぼ「作れる」だけです。今回はいきなり数値を計算する「活かせる」ではなく、「読める」に着目しました。

①授業で習った内容が実際のビジネスで使われているとわかり、やる気が出る
②財務分析で数値を出すとき、その勘定科目と金額の裏にある仕訳と取引を読み取れるようになる(「活かせる」につながる)
授業ではさらに、次の2点を考えてもらいました。
①なぜ平田機工は役員賞与引当金を計上したのか(計上の論拠)?
②引当金は、会社が自由に計上してよいのか?
引当金の計上要件は、企業会計原則の注解18に規定されています。簿記2級では会計理論は出題されませんが、AIが自動処理・分析までこなす時代に、表面的な仕訳だけ学んでも意味がないと伝えるため、あえて踏み込みました。
1級生が2級生に教え、2級生が1級生に質問する。こうして教え合い、学び合う環境が生まれました。カリスマ講師の授業を聞くだけなら自宅のスマホ視聴でもできます。オンライン学習が当たり前の時代に、わざわざ教室に集まって学ぶ意義は、ここにあると考えています。
巷の簿記の授業は、仕訳を練習し、問題集を繰り返し、先生が解き方を教える形が一般的です。私たちの授業は、学び方を学ぶところから始め、作った財務諸表をどう読み取り、どう活かすかまでを含めて簿記を学びます。
財務諸表をアップロードするだけでAIが分析してくれる今、数字にどんな意味があり、経営にどう活かすのかを理解しているのは、使う側の人間でなければなりません。そのために、旧来の「問題の解き方」中心の試験勉強を改め、ドリル中心の自己流学習から、科学的で戦略的な学習方法へ切り替える授業が必要だと考えています。
新しい教育は、九州・熊本で始まっています。「人づくりは国づくり」という想いで、この取り組みを全国の学校に広げていきたいと思っています。
学校でのゲーム体験会も承っています。ご興味のある方はお問い合わせください(当社ホームページ)。

『ゲームだからこそ!楽しく体感的に「経営数字」の
スキルを身につけることができる!』
本セミナーでは、「ビジネスゲーム」を使い、
会社経営を疑似体験しながら、ビジネスに
おいて必須の「経営数字・経営分析」といった
ビジネススキルを体感的に身につけていただ
きます!
【2時間のセミナーで学べる内容】
① 決算書の数字の読み方、活かし方
② エクセルを使っての経営分析・財務分析
【開催日】11月28日(土曜)10時より2時間
【受講形態】オンライン
【受講料】3,300円