イタリアの名選手、値がつかず
サッカークラブにとって、選手は最大の財産とえます。
では、クラブの経営状態を表す財務諸表で、選手の価値がどのように表現されているかご存知でしょうか。
実は、一般企業と同じように、クラブが抱える資産と負債の額は貸借対照表(バランスシート)で記されます。
ユースからそのままトップチームに昇格してプレーしている選手の場合、実は貸借対照表には何も計上されていません。その選手の「金額」がまだ決まっていないからです。
しかし、他のクラブから獲得した選手の場合は違います。
相手クラブに支払った移籍金の額が資産として計上され、契約年数によって減価償却されていきます。パソコンや機械設備など、一般企業の設備と同じ具合です。
会計基準は国やクラブによっても異なりますが、欧州ではこの方法が主流だそうです。イタリア1部リーグ(セリアA)のACミランで40歳までプレーしたパオロ・マルディーニという選手がいます。
セリエAの史上最多出場674試合という金字塔を打ち立てた名選手ですが、ユースから引退までミラン一筋だったため、会計上は生涯、値段がつかないままでした。
英国プロサッカークラブにみる移籍金と契約金の会計処理
世界に名だたるビッククラブが存在する国は、イタリアだけではありません。
現在も日本代表の各選手がクラブチームで活躍していますが、英国にもビッククラブが存在しますね。では、この英国におけるクラブチームでは、選手の移籍金や契約金に関して、どのような会計処理がなされているでしょうか。
まず、欧州では、移籍金は選手自身の売買ではなく、「選手登録権」の売買と考えられています。
そして、英国における、この選手登録権の会計処理方法は、選手登録権の獲得に関連して支出したコストは無形固定資産として計上され、支出金額は定額法で、それぞれの選手の契約期間に渡って全額償却されます。
また、選手登録権は帳簿価額が使用または売却を通じて回収可能な額を超過している場合には、減損処理されます。
では、契約金の会計処理はどのようになるのでしょうか。移籍金と契約金とでは、移籍金が他のプロサッカークラブに所属する選手の選手登録権を獲得する際の対価として、取引相手に対して支出した金額であるのに対し、契約金は一般的にプロサッカークラブが選手と契約する際に、選手に対して支出した金額という点で異なります。
このような違いにより、契約金については、移籍金とは異なり、営業費用の一部として、選手の契約期間に渡り損益計算書に均等計上されたり(期間均等分割計上法〜チェルシー等が採用)、契約日に一括して費用計上される(一括計上法〜アーセナル等が採用)方法が採られています。
選手に対する人権上の問題が、資産計上を可能にした?!
欧州では、移籍金は選手登録権、要は「選手を自身のクラブに登録する権利」の売買と考えているということを書きました。つまり、「選手そのもの」を獲得したとは考えません。
その理由の1つとして、「人権上の問題」があると思われます。移籍市場を通じて、「選手そのもの」を売買する、という印象は、人権意識が高い欧州では、好ましいものではあり
ません。ですが、「選手を自身のクラブに登録する権利」を売買する、ということであれば他の様々な貨幣換金価値のある権利の売買とさして変わらない印象を持たせることができます。
また、このように捉えることで、会計上で計上されている特許権や営業権のような将来キャッシュ・フローが期待できる権利と同様に認識し、無形固定資産として資産計上できると考えることができます。
日本のJリーグにおける移籍金の会計処理は?
では、移籍金について、日本ではどのような処理がなされているのでしょうか。
Jリーグのクラブで有価証券報告書を作成しているコンサドーレ札幌を運営する北海道フットボールクラブの有価証券報告書をみてみました。すると、高額な移籍金は「前払費用や長期前払費用」として資産計上され、定額法で契約年数に渡って償却されているようです。
しかも、その理由は会計的理由によるものではなく、単に税務上の理由によるものだそうです。
日本では、無形固定資産に関する包括的な会計基準は存在せず、企業会計基準に規定がある程度です。収益費用アプローチによる企業会計原則では、B/S上に無形固定資産として資産計上されないのかもしれません。
本当、「サッカー選手の価値をいかに決算書に反映させるのか?」企業会計上の問題は、人権問題と繋がるということが興味深いですね。
わたくしたちのビジネスゲームセミナーでも、よく「人財は決算書に載らない」という話をゲーム中のワークでします。
企業会計や経営分析をビジネスゲームを使って学ぶセミナーにおいて、そんなことを言うのは身も蓋もないことですが、「そのことを分かった上で」企業会計を道具として使い、経営分析により経営戦略を立て、そして「人を育て大切にする」ということを体感的に学んでいただくことを狙いとしているのです。