以前、NHKで放映されたテレビドラマ「神様の女房」をご覧になられた方はいらっしゃるでしょうか?
このドラマは日本的経営の原点である松下電器産業(現パナソニック)の創業者・松下幸之助とその妻・むめの夫人の奮闘を描いた物語です。
会社を起こした当時は、自宅を作業場にし、空いたスペースを夫婦で寝床にするような生活でしたが、幸之助の家電に対する熱意と努力、そして、運と縁にも恵まれて経営の神様とうたわれるまでになりました。
その陰で支えたのが、むめの夫人のプラス思考と泰然とした姿勢だったのです。
むめの夫人は松下電器で働く従業員に寮と食事を用意し、挨拶や言葉遣いなどを徹底して教育していきました。
従業員に困ったことがあれば、とことん相談にのってあげ、従業員を家族同様に扱うという人を大切にする姿勢が結束力を生み、松下電器成功の引き金となったのです。
一人ひとりの個性を把握してトップに適材適所の人事を提言し、時にはそのトップにも苦言を呈する。文字通り女房役としてのむめの夫人の存在が松下電器の成長を下支えしたといっても過言ではないでしょう。
その後、松下電器産業株式会社となり、多くの利害関係者を有するようになってからは、高橋荒太郎という大番頭が幸之助の女房役を努め、松下の経営理念を礎にしながら「経理の乱れは経営の乱れに通ず」との立場から、常に経営の羅針盤としてトップを補佐してきたのでした。
なお、世界のホンダでも技術出身の経営者だった本田宗一郎の成功の陰に、組織管理・財務・営業で辣腕をふるった藤沢武夫という全く性格の違うパートナーが存在しました。
この藤澤さんについて特に興味を引かれるのは、その著書や発言の中で、説明責任(アカウンタビルティ)や情報公開に対する意識の高さです。
これらは今でこそ重視されるようになりましたが、藤澤さんははるか以前から企業内外の利害関係者に経営状況を正しく説明することが信頼感を生み、長い目で見れば最も大きなリターンをもたらすとの信念を持っていたのです。
このように大成功した企業には何らかの形でトップと女房役という名コンビがいたようです。
大王製紙の井川元会長の巨額借入事件やオリンパスの損失隠し等、創業家出身の経営者が資金を使い込んだり、M&Aを巡って社内が混乱したり最近の企業のゴタゴタを見ていると、女房役がどこにいるのかと疑問に思わざるえません。米国でもエンロン事件以来不祥事が相次ぎ、企業統治の問題が尾を引いています。
誰が女房役を努めるのかは、色々なケースがあるでしょうが、米国では最高財務責任者(CFO)であることが一般的です。
CFOは、財務面でCEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)を補佐する役割を担う重要なポジションです。
CFOの役割は主に①資金戦略②M&Aの推進の2つですが、日本ではCFOの位置づけは曖昧で明確ではなく、現状では経理担当者をそう呼んでいるようなところもあります。
日本では経理部長や管理部長などと同様の扱いをされることが多いのですが、業務内容は単なる経理の枠を超え、「キャッシュフローの管理」「財務諸表の作成業務」「財務戦略を経営に反映させる」などの他、「執行役員を独立的な立場で監視する」「企業の行動を冷静に判断する」といった数多くの重要な役割を担っているのです。
CFOは、企業の一員としてCEO、COOとともに経営に尽力すると同時に、あくまで独立性を保ち、冷静かつ厳しい目をもって企業と執行役員を監視しなければいけません。
この機能がしっかり果たされていないと、CEOの暴走を抑止したり、企業の不正を見抜いて正すといったことができず、企業はいずれ不正行為をしたり、倒産する可能性があります。それらを防止する意味でも、企業にとってCFOは必要不可欠な存在なのです。
このため、CFOには経理や財務意外にも幅い広い知識と、経営のセンスも必要と言われています。
最近になっても続発する企業不正事件。確かに人間誰しも、苦しいときは逃げ出したくなりますし、見たくないものにはフタをしがちですね。
しかし、会社となるとそうはいきません。個人であれば、嫌なことから逃げても自分が痛い目にあうだけですが、会社には従業員をはじめたくさんの関係者がいます。
やはり企業統治を強化する上でも、会社を守り、関係者を守る上でも、まず女房役としてのCFOの役割を確立する必要があると思います。
見えざるトップや組織・戦略を支えるいぶし銀のような存在こそがいま求められているようですね。
なお、わたくしどものビジネスゲームでは、チームで上記のように「COE」や「CFO」、「CPA(会計顧問)」の3者に役割分担していただきます。
それぞれに役割がありますので、ゲームを通してこういった役割を体験できるところも他のセミナーにはない魅力だと思っています。