前々回の記事で
「制度上認められる合法的な粉飾決算の方法」について書きました。
今回はその続きです。
社長から
「おい!君!今期は何としても黒字でないと困るのだ。何とかしたまえ!」
と言われたらどうするか?というお話でした。
(製品原価の内訳)製品100個生産
材料費:3,000万円
労務費:2,000万円
経費(地代):1億2,000万円
(今期の利益計算見通し)
売上1億6,000万円(100個販売)
原価1億7,000万円
損失△1,000万円
これを黒字かすべく経理担当者のA君がとった方法とは?!というストーリーです。
「しょうがない。購買担当者と生産担当者に連絡し、製品を20個分追加生産しよう。」
経理担当者のA君は、そう自分の後輩に言った。
「先輩。気持ちは分かりますが、すぐに販売できるお客さんは見つけられないっスよ~。」
後輩は目を×にして言う。
「いや、大丈夫だ。追加生産した製品はそのまま在庫としておく。」
果たして、A君の真意とは如何に!?
ということで、解説です。
A君の提案のように、上記の原価が製品100個分であったとして、追加で20個増産し、それをそのまま工場の倉庫に在庫としてしまったらどうなるのか、確認してみます。
材料費:3,600万円
労務費:2,400万円
経費(地代):1億2,000万円
増産した場合の原価:1億8,000万円
そして、売れた100個分に対する原価が売上原価として費用になり、生産したけど在庫として残った20個分は、資産になります(来期に売れたときに費用になる)。
ということで、増産した原価1億8,000万円を売れた100分と在庫になった20個分に振り分けてみます。
【売れた100個分の原価】
1億8,000万円×100個÷(120個)=1億5,000万円(費用計上)
【在庫20個分の原価】
18,000億円×20個÷(120個)=3,000万円(資産計上)
以上、利益を計算してみましょう。
売上1億6,000万円
原価1億5,000万円
利益 1,000万円
おっ、利益がでた!
ん?でもなんで?
確かに製品は増産した。
でも、売れたわけではなくて、そのまま倉庫に在庫として積み上げただけ。
なんで利益がでるの?
そう思った方も多いでしょう。
今回は、この種明かしになります。
経理担当者のA君は社長から「何とかしろ~!!」と怒鳴られ、
「しょうがない。購買担当者と生産担当者に連絡し、製品を20個分追加生産し、在庫を積み増そう。」
という策にでました。
すると、あ~ら不思議。
売上1億6,000万円
原価1億5,000万円
利益 1,000万円
上記のように利益が出るではありませんか?!
原価が2,000万円減少してますね。
その内訳は次のとおり
【増産後の原価】
材料費:3,600万円
労務費:2,400万円
経費(地代):1億2,000万円
増産した場合の原価:1億8,000万円
↓
【費用として計上される分(100個分)】
1億8,000万円×100個÷(120個)=1億5,000万円(費用計上)
【資産計上される20個分の原価】
18,000億円×20個÷(120個)=3,000万円(資産計上)
(この分は次年度販売されたときに費用になります)
さて、どうして増産し、在庫を積みましただけで、利益が増えるのか?
その秘密は「固定費」にあります。
増産前と増産後の各費目を比べてみます。
<材料費>
(前)3,000万円→(後)3,600万円
<労務費>
(前)2,000万円→(後)2,400万円
<経 費>
(前)1億2,000万円→(後)1億2,000万円
上記をみていただくと、増産の前後で増えた原価と変わらない原価があるのが分かりますよね。
生産量に比例して増減する原価のことを変動原価(変動費)といい、一定である原価のことを固定原価(固定費)といいます。
具体例としては、減価償却費とか賃借料がその代表です。
今回のトリックは、この「固定原価」を使ったものだったのです!
固定原価は、生産を増加させても発生額は一定でした。
ということは、生産を増加させ、在庫を積みますと、固定原価の一部がその在庫に吸収され、資産計上されるため、費用として計上される額が減るのです!!
固定原価だけ取り出して、計算で確認してみますね。
【増産前】
100個生産し、100個販売
経費(地代):1億2,000万円
↓
全額が売れた製品の原価として費用になる。
【増産後】
120個生産し、100個販売、20個在庫
経費(地代):1億2,000万円(一定)
↓
【費用として計上される分(100個分)】
1億2,000万円×100個÷(120個)=1億円(費用計上)
【資産計上される20個分の原価】
12,000億円×20個÷(120個)=2,000万円(資産計上)
どうでしょうか?
1億2,000万円の固定原価が、増産による在庫積み増しにより、在庫(20個分)の方に2,000万円吸収され、費用計上される原価は1億円になりました。
これが、増産により利益が捻出されたトリックなのです。
え~そんなん粉飾決算じゃないの~。
そう思われた方もいるかもしれません。
しかし、
制度上での製品原価の計算は、変動原価と固定原価を全部合わせて計算することになっています(全部原価計算といいます)。
このため、在庫があれば、固定原価は常に、在庫に吸収される形で計算されてしまうのです。
そう!
つまり、この方法は制度上認められる合法的な粉飾決算ともいえるのです。
裏を返せば、全部原価計算の欠陥ともいえますね。
では、このような問題を解決するにはどうすればいいのか?
売上が増加していないのに、増産して在庫を積み増すだけで利益が増えるなんて、経営者感覚からすると何かへんですよね?
感の良い方はもうお気づきでしょう。そう、簿記2級の工業簿記で習ったアレですよ~。
そう。
直接原価計算です。
つまり、製品原価の計算は「変動原価」で行い、固定原価はその発生額をそのまま売上の原価として費用計上(つまり、在庫への配分計算をしない)する計算方法です。
ただし、直接原価計算は制度上認められていませんでしたね!
だから、固定費調整があるんです。
「あれ?その話し何だっけ?」
と思われた方へ!
そう疑問を感じた時こそ、自分で調べて自分で考えてみ下さい。
そのようにして得た、理解が本当にの理解になります。
なお、わたくしどものビジネスゲームでは、初級編から上級編までありますが、さらに
そのうえの「エグゼクティブ編」が存在し、このエグゼクティブ編において、上記の直接原価計算方式による損益管理を行っていただきます。
ビジネスゲームセミナーは、福岡や熊本を中心に、鹿児島、山口、岡山、大阪、東京と順次開催していく予定です。さらに、仙台や青森などの東北地方でも開催したいと思っております。ぜひ、皆様のご参加をお待ちしております!